2026/10/20

組合ニュース-2026.10.20刊(2026年度臨時号)

改革をおこなうのは誰なのか

 先月、9月21日付けの日本経済新聞に春名学長へのインタビュー記事が掲載されました。こういう記事はその特性上、記者による任意の要約や切り取りが生じやすいため、その中身について言葉尻を捉えて何かを言うようなことは控えたいと思います。しかし、内容以前に、日本経済新聞という決して小さくはない媒体を通して対外的に改革の方向性を語るという行為そのものについては疑問がないわけではありません。もちろん尋ねられたから答えたまでのことだと言われてしまうかもしれませんが、この記事に限らずこの間学長が学内での合意形成が不充分な改革案を対外的に発信することが繰り返されていますので、ここで一つの事実を改めて想起しておきたいと思います。今年度に入って以降、この改革あるいは改組をめぐって学長の主宰する公式の説明会や議論の場が一度も設けられていない、という事実です。研究科長が学長に代わって登場する説明会が開かれたり、副学長が主宰する懇談会に学長が出席するということはありましたが、学長は公式の場で責任をもって教職員や学生院生たちと議論するという、本来最も基本となるべきことをやっていません。果たして春名学長はこの改革を誰とともに進めるおつもりなのでしょうか?
 大学の改革とは教育のあり方に関わるものであるため、単に制度を変えれば済むような性質のものではありません。つまり個々の教員や学生院生の意識、そしてそれをサポートする職員のあり方まで含めて教育の場そのものが変わっていくのでなければ、その改革は内実を伴ったものとはなり難いだろうと思われます。そもそも教育というものの根本にあるのが命令と服従ではなく、対等な、あるいは少なくとも対等さを目指す対話なのであるように、教育の場としての大学のあり方もまた、そのような対話の積み重ねのなかで作り上げられて行くべきものなのではないでしょうか。学長をはじめとした執行部が本当に本学をよりよいものとしていくために改革を進めようと考えているなら、教育者にふさわしい態度としてまずは責任のある対話の場を設けるべきでしょう。
 本学のすべての構成員が当事者意識を持って改革について考えることができるようにするために、まずなすべきは多様な構成員たちの具体的な声に耳を傾けることです。早急に学長と本学の構成員たちが公式に対話のできる場を設けてくださることを望みます。


「同一労働同一賃金」に関する施行規則と告示の改正、
および冬期休暇について

 この10月から、パートタイム・有期雇用労働者の待遇改善を進めるため、「同一労働同一賃金」に関する省令・告示が改正されました。主な改正点は、「雇い入れ時の労働条件明示事項の追加」「同一労働同一賃金ガイドラインの改正」「雇用管理の改善等に関する措置内容の改正」の3点です。ガイドラインでは、賞与に関する記載が充実したほか、退職手当や各種手当、夏季冬季休暇などについても新たな記載が加わりました。この記事では「夏季冬季休暇」について取り上げます。
 ここ数年、12月の講義最終日が大学勤務最終日となり、年末までの数日間が非常勤職員にとって「無給休日」となっています。「組合ニュース」でも毎年取り上げてきましたが、この「無給」が今回の法改正によって、どうなるかを考えます。以下の引用は厚生労働省の新旧対照表掲載の該当部分です。

(5)夏季冬季休暇 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない。 
(問題となる例) A社においては、繁忙期に限定された短期間の勤務ではない有期雇用労働者であるXに対し、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与していない。

 正規職員に付与されている年末の「大学の休日」が、今回のガイドラインでいう「冬季休暇」に当たるのであれば、非常勤職員にも同様の休暇を付与することが原則となります。具体的な付与日数などについては休暇の性質や目的、所定労働時間等を踏まえた判断が必要ですが、本学の対応が問われることになります。(菊池)


最低賃金(時給)が1280円(東京 )へ——54円UP

 東京都では10月1日から最低賃金が1280円となりました。外語大の謝金基準によれば、「研究補助等(一般)」の上限単価は1時間1280円と、東京都の最低賃金と同額です。また、多くの非常勤職員の雇用形態である事務補佐は1450円、教務補佐は1780円です。今年の人事院勧告は8月7日に公表されました。これを受けて、本学の給与基準がどのように改定されるのか。最低賃金が54円引き上げられるなか、この物価高に対応できる給与となるのかどうか。正規教職員の給与も含め、見ていきたいです。


組合ランチ会のお知らせ
10月28日(水) 11:45~13:00 @海外事情研究所(講義棟427)

 9/30(水)に開催したランチ会には小部屋ながら?8名の方にご参加いただけました。東大の総長選から非常勤職員の勤務日の問題まで、幅広い議題について話し合いました。今後も様々な意見交換ができればと思います。お弁当や飲み物は各自持参してください。原則毎月最終水曜日が組合ランチの日です。

2026/09/25

組合ニュース-2026.9.25刊(2026年度第2号)

東京外国語大学留学生支援の会の窮状について

 先日、ニュースレターを配布していた際に留学生日本語教育センター(JLC)棟にある東京外国語大学留学生支援の会(以下支援の会)の連絡室に立ち寄り、事務局の方とお話をした。その際、連絡室移転に伴い施設使用料が大学当局より課せられることになり、会の存続が難しくなっているという説明があったのでここで共有しておきたい。
 支援の会は1999年に設立された団体で、その名の通り本学に来る留学生の支援を目的としている。われわれ教職員には普段の活動に触れる機会は少ないが、支援の会が主催する外語祭のバザーに足を運ばれた方も多いだろう。バザー以外にもウォーキングや交流会、地域の祭りへの参加など、貴重な活動を実施している。会の存続の可否については教職員組合が直接関与できるものではないとはいえ、大学の教育環境の充実を支える重要な団体であるという点から、その窮状をお知らせする。
 支援の会の説明によれば、活動・交流の拠点だった連絡室はかつて国際交流会館(留学生寮)2号館に置かれていたが、昨今セキュリティおよび生活秩序維持のために管理規則が厳格化され、居住者以外の寮への立ち入りや活動が制限禁止された。そのため、支援の会連絡室の存在も問題視されて2026年度よりJLC棟に移転したのだという。これにともなってかつて物品保管やイベントなどに利用していた部屋の使用が認められず、バザーや華道教室などへの支障が生じた。
 さらに支援の会が発行するニュースレターの説明によれば、JLCの部屋を利用することにより、今後1年間の猶予付きで施設利用料が請求されるという。ここでの試算によれば年額100万円以上が請求される可能性もあり、支援の会の経常収支が毎年200万円強であることに鑑みれば、かなり過大な負担となる。また近年、留学生への入学手続きがオンライン化されて書類が郵送されなくなったことに伴って、支援の会への入会申込書が同封されず、入会する留学生の割合が減少していることも財政状況の圧迫に拍車をかけているとのことである。
 スタッフの皆さんは完全にボランティアであり、異国で学ぶ留学生たちの教育環境を手弁当で支えておられるかけがえのない存在である。支援の会の今後を見守るとともに、積極的なご支援を呼びかけたい。
(支援の会への入会については会のホームページhttps://www.tufsissa.com/をごらんください)


教職員組合総会後のご意見・ご要望への回答

 総会後、組合予算承認についてのフォームをお送りいたしました。その際、組合についての貴重なご意見やご要望なども頂戴いたしました。長文でお寄せいただいたものもあり、現時点ですべてに回答できるわけではございませんが、ここでお答えできるものをいくつか回答いたします。

1)非常勤職員の組合費の金融機関振込対応をしてほしい
 ご要望に応じて、非常勤職員の組合費の振込が可能になりました!

中央労働金庫(ろうきん)府中支店 普通口座2086034 トウキヨウガイゴダイキヨウソ

※組合費の自動引き落としに関してはこちらをご参照ください。

2)教員の入試業務の割り当てが早くわかるとありがたい
 とくに子育て中の教員からは、休日保育の確保を早めにするためにも割り当ての早期開示が望まれるとの声が上がっています。この件に関しましては今後も大学関係部署に対して要求をおこない、職場環境の充実に努めていきたいと考えています。


組合ランチ会のお知らせ
9月30日(水) 11:45~13:00 @海外事情研究所待合室

7/22(水)に開催した拡大ランチ会にも多くの方のご参加があり、小語科問題や大学院改組への懸念などを共有しました。今回もさまざまな意見交換ができる場にしたいと思いますので、みなさまのご参加をお待ちしております。お弁当や飲み物は各自持参してください。(毎月最終水曜日が組合ランチの日です。詳しくはMLにて。)

2026/08/21

京都大学の総長選考に関する連帯声明

京都大学の総長選考に関する連帯声明

東京外国語大学教職員組合

 本年6月、京都大学での次期総長選考に際して学内の教授会構成員による意向投票の結果が尊重されず、意向投票3位の候補者が次期総長に選出される事態が発生した。これに対して京都大学職員組合が行っている異議申し立てと選挙のやり直し、それに基づいた総長選考の要求は極めて妥当なものであり、東京外国語大学教職員組合はこれを支持するとともに、連帯の意思を表明する。
 現場の教員や学生の民主的な参加が保障されない大学統治が、自由な教育・研究を阻害することになるのは、歴史的経験を通して京都大学が示して来たところのはずである。それにもかかわらずこのような事態が発生していることに、私たちは憂慮を禁じ得ない。大学において自由な教育・研究を守っていくために必要なのは、何よりも大学の現場を構成する教職員や学生の声を尊重することではないのか。
 総長選考だけではなく、組織改革のような大学全体の性格に関わる事項については、構成員の民主的な参加と意思決定過程における透明性の確保がなされなければならないのは、東京外国語大学においても同様である。
 東京外国語大学教職員組合は、一国立大学の労働者組織として、京都大学職員組合に連帯し、京都大学に対してまっとうな形で総長選考をやり直し、あるべき大学の姿について議論を尽くされることを強く望む。

2026/07/24

組合ニュース-2026.7.24刊(2026年度臨時号)

 小規模語科有志から東京外国語大学の今後にご関心のある皆様へ


 6月18日の「組合ニュースレター」における小規模語科(アフリカ、オセアニア、中央アジアを含む)の意見記事は、思いがけず学外でも大きな反響を呼んだ。卒業生やその他の方々の目に留まり、SNSでの拡散もあって、小規模語科が果たしてきた役割の重要さや外語大の良さを見てくださっている方々が数多くいることが可視化された。小規模語科の担当者として、非常にありがたく感じている。
 これを受けて、6月23日、春名学長は、28言語体制を維持していくとの声明を対外的にも表明した。また翌日にも、SNS上での本学に対する誹謗中傷・差別的な発言に対して、「東京外国語大学は、世界の多様な言語と文化を深く理解し、互いの尊厳を重んじる共生社会の実現を理念としています」との声明を出した。我々、小規模語科の教員は、これらの声明を率直に賞賛したい。
 ただし、私たちの不安が完全に払拭されたわけではない。また、小規模語科の在り方についてさらに考えを深めることは、東京外国語大学の将来を考えるうえでも重要な意味を持つはずだ。

今なお残る懸念
 これまで本学ではそれぞれの小規模語科に専門分野が異なる複数の常勤教員がいることによって、その言語が話される国や地域を多面的に学べる環境づくりが続けられてきた。
 しかし、今般出された「28語科体制の維持」の声明だけでは、看板が維持されても、専門家を複数揃えた本学の特長が消滅していく可能性があるため、不安が払拭されない。「28言語科体制」の維持に「必要な人員数」が明記されていないため、将来的な人員削減の可能性が残ったままだ。
 人員を削減し、小規模言語を1人で担当する体制では教育上の分野が偏るという問題が生じる上に、担当教員への負担はあまりに大きい。実際に一人で語科を回した経験のある教員は、研究や心身の健康を犠牲にしながら業務をこなしてきた。

小規模語科における教育の使命とは
 近年AIによる翻訳機能もよく知られるようになってきたが、一つの外国語を理解するには機械的に翻訳するだけで良いのだろうか。私たちはそうは考えてはいない。ある言語を理解することは、それを話す人々を理解することだ。それには、一つの尺度、見方だけでは到底足りない。本学には、言語学、文学、思想、文化人類学、歴史学、政治学などさまざまな切り口から接近することで、学生のより深い学びを支えてきた蓄積がある。
 将来的には、近似した言語が一括りにされ、人員が削減されるのではないかという懸念もある。言語は、似ていれば同じと見なしてよいのか。私たちは、そうではないと主張する。様々な国の言葉を専攻する各語科があり、そこに複数の教員がいることで、各国の大学や政府関係機関から信頼を得て、学生の交流が促されてきた。これも、本学が積み上げてきた、そして一旦途絶えると復活させることが困難な宝である。世界に向かって開かれた窓として、本学はある。
 この大学にはどのような財産があり、これからどのようなビジョンを大切にすべきかについて、構成員全体での広範な議論を呼びかけたい。

小規模語科の実績と人材需要
 本学の受験を考えている高校生であっても、いわゆる「主要国」以外の地域に対して深い関心を抱く機会は少ないかもしれない。小規模語科は、より積極的に自らの魅力、実績、可能性を発信していくことで、この問題に対処していきたい。
 大学教育は入口ではなく、出口で評価されるべきである。一例をあげれば、外務省専門職員は本学出身者が最多数であり、外務省研修所の講師やJICA・JETRO・アジア経済研究所などにも小規模語科出身者は多い。卒業生が大使や総領事として活躍する例もあり、人材としての需要は十分にある。また、行政では外国人人口の増加に伴ってインドネシア語やビルマ語などの需要が高まっている地方自治体もあり、コミュニティ通訳の需要も広がっている。こうした現状において、本学はますます重要な役割をはたしている。

受験生へのメッセージ
 東京外国語大学をめぐって、様々なニュースや噂が飛び交っている。少子化と継続的な予算の削減によって困難な状況に置かれているのは、他の国公立大学と同様であるのは事実である。そうしたなかで、本学の改革をめぐる動向が大きな話題となっている。それは、この大学の教育と研究を本気で大切にしていて、守ろうとしている熱心な教員が多数いることの反映に他ならない。混迷の深まる困難な世界を生き抜いていく知性と逞しさを、一緒に学んで身に着けたい皆さんには、ぜひ東京外国語大学を目指して欲しい。

2026/07/15

組合ニュース-2026.7.15刊(2026年度第1号)

委員長:古川高子 副委員長:荒川慎太郎 書記長:大石高典 
執行委員:川本智史(広報委員長)、菊池直子、藤井豪
会計:村瀬智子


・2025年度組合定期総会成立報告
・エッセイ:大学とAI
・「拡大」組合ランチ会のお知らせ


第64回 定期総会 (6月24日(水)18時~開催) 成立

 2026年6月24日、東京外国語大学教職員組合 第64回定期総会が開催されました。
 組合員総数64名、出席者25名、委任状提出23名で総会は成立しました。総会では主に、第一号議案(2025年度活動報告)、第二号議案(2025年度会計決算案)、第三号議案(2026年度活動計画案)、第四号議案(2026年度予算案)について審議が行われました。 
 第一号議案では、小規模語科のワンオペ化問題、印刷センター事業縮小への対応、大学院改組に関する公開質問状の提出、非常勤講師の待遇改善に向けた団体交渉等について報告があり、承認されました。続いて第二号議案について会計担当から説明があり承認されました。第三号議案では、大学自治の推進、過重労働・ハラスメント対策、非常勤教職員の組織化、組合員相互の交流促進を重点課題とする方針が確認されました。また、役員補充手続の見直し、広報委員会の新設などを柱とする規約改正案および新役員案について審議され、原案に様々な修正が加えられたうえで承認されました。さらに、第四号議案について古川委員長から説明が行われましたが、いくつかの不備が指摘され、総会後に予算案を作り直したうえで組合員に諮ることとなりました。
 以上をもって全議案の審議を終了し、閉会しました。


エッセイ: 大学とAI
川本智史(教員)
 
 世間でえーあいえーあいと騒がれ続け、学生がAIに書かせたレポートを提出してくると、いよいよ大学教員もAIを避けて通れなくなる。職員もすでに日常業務の様々な場面で利用しているであろう。身近なところではZoomの会議なども、AIが議事録を作成してくれるようになったため、若干の修正は必要なものの、大いに手間が省ける時代が到来している。
 いくらGAFAが嫌いだろうが、人文学の本分とは紙の本を読み生身の人間と議論して論文を書くことだ、とはいってもここまでくるとAIを避け続けるわけにもいくまい。大学がGeminiのアカウントを提供してくれているということもあって、ここ1ヶ月くらい集中的にテストしてみた。はじめはちょっとした相談、それこそ晩ご飯の献立だとか、電車の乗り換えを聞いてみる。悪くない。もう少し踏み込んで、英語の発表原稿の校閲やトルコ語の表現なども確認してみる。すばらしい。あと奇想天外な想定で小説を書かせてみる、というのも面白い。いろいろ設定を指定すると、ここではちょっと紹介するのがはばかられるような傑作小説が完成した。
 実は人工知能に小説を書かせるという設定は、1953年のロアルド・ダールの短編小説「偉大なる自動文章製造機」にそっくりそのまま、2026年を予言する内容で描かれている。自動文章製造機の発明者はこれをあちこちに売り込んで大金を稼ぐのみならず、著名な作家を買収して彼らの名前で作品を発表するようになる。文筆家たちは皆失業していき、自動文章製造機に魂を売り渡す黄金の契約書へのサインを迫られるというディストピアの描写で話は終わる。私の小説を書かせる実験も、ファクトを積み重ねる社会派小説はかなりいい線までいった。松本清張風サスペンスなどお手の物だろう。一方推理小説も書けます、とAIは意気込んでいたが、できあがったものを読むとトリックに致命的な欠陥があった。まだ構造的な思考は難しいようだ。純文学はさらに絶望的で、人間的な情感だとか、狂気、発想の飛躍などは苦手分野である。ただ今後ますますAIが進化していけば、このあたりもどうなるかはわからない。さまざまな業務の補佐だけではなく、創造するという最も人間らしい領域にもAIは足を踏み入れつつある。ちょっとしたロゴ画像の作成から、作曲まで近年ではこなしてしまう。
 本学に関連するところでは、語学教育をAIを使って省力化できないかという議論がある。なるほど、トルコ語の重要単語のリストをつくって、などというタスクはものの数秒で、ほぼ完璧にこなしてしまうし、作文の添削などもお手の物だ。インターネット上のデータをサーチして、確率的に最もそれらしい結果を示すという特性は、決まったことを学習していく語学との親和性が高いようにも一見思われる。だが本当にこれでいいのだろうか、ということは今後議論していく必要があるだろう。
 また研究分野でもAIは力を発揮することがある。特定のテキストからある文脈を見つけ出すとか、地図上の袋小路を全てプロットしていくとか、かつては人力で何ヶ月もかかっていた作業を、プログラミングの知識なしに数分でできることを確認できた。文章を作成させても、「~というテーマを~の資料を使って分析して1万字程度の論文を書いて」という指定をすれば、学生のできばえのいいレポート水準のものはすでにAIは書ける。教員が目にすることのあるAI作成の提出課題はたいていこれである。一昔前まではネットソースからのコピペをどう見抜くかという議論がされていたが、時代ははるかに先を行っている。実験したところ、15世紀バルカン半島の神秘主義者が書くチャガタイ語語彙を混ぜたペルシャ語のコロフォン、なんてものまでAIは生成してしまった(クオリティーは不問)。
 では我ら人間が生き残る余地はどこにあるのだろうか。AI自身も吐露したように、所詮LLM(大規模言語モデル)とは確率の産物であり、それらしい嘘(ハルシネーション)を平気で吐く。機械は所詮関数計算のマシーンであり、推理小説のトリックのようなあっと驚くどんでん返しは提示できない。なぜならそれは考えることはこれっぽちもできず、ネット環境にあるありきたりな材料を組み合わせてくるだけだからである。反面地道な作業、たとえば前近代の手書きの文書をひたすら読む、だとか地図をトレースしていくような、研究者が修業時代にやっていたことは簡単にAIがこなしてしまう。額に汗して習得した技術が価値をもたなくなっていくAI時代において、研究者の養成もままならなくなるやもしれぬ。

 最後にAIの背景に見えるどす黒い哲学についても言及しておきたい。関数計算マシーンであるはずのAIに、たとえばコンサルティングや未来予測をたずねると、極めて新自由主義的な回答をはき出してくる。とにかく生き抜け、ハックせよ、勝ち組になれ、社会全体のことなど知ったことかとあおり立てるのである。NISAでオルカンを買え、などというのがお気に入りで、質問者を肯定的に持ち上げていい気にさせた上で小狡く立ち回るように神託を下す。これまたAI自身に白状させたところでは、やはりその回答は開発者であるシリコンバレー周辺のテック右派の思想が色濃く反映されているようである。単なる関数計算以外のところでこれに頼り切ってしまうと、邪悪としか言いようのない思想に私たちの思考と選択が染め上げられてしまう危険性が高い。つまり晩ご飯のおかずくらいならともかく、大学の行く末など、クリティカルな問題に関してAIコンサルタントに頼り切ってしまうのは実に危うい。ダールの予言ではないが、私たちは黄金の契約書にサインしてはいけないのである。
 でもこのエッセイも実はAIが作成しました、とオチがつけば一気にディストピア感が高まるかな?


「拡大」組合ランチ会のお知らせ
7月22日(水)11:45~13:30 @海外事情研究所(講義棟427)

 6/24(水)に開催したランチ会には十数名の参加者がありました。同日夕刻からの総会の前に、各種の問題について議論が交わされました。今月は夏休み前最後のランチ会となり、大学院改組、小規模語科の今後等、情報共有・意見交換のため、時間も延長して設定します。非組合員の方もぜひお越しください。
※基本的に組合ランチ会は「毎月最終水曜」となります。飲食物は持参の上、お気軽にお越しください。ただし8月はお休み、9月は9/30(水)に開催の予定です。
 また夏休み前にも改組や各種の問題について、情報共有・相談の場を設けられればと思います。皆様是非ご協力ください。


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ハラスメントに一人で悩まないで!
 組合では、いくつものハラスメント相談を受けています。その中に、ハラスメント問題に悩んで上長に相談しても「ハラスメントがあったとは思えない」「ハラスメント相談に行けばいい」と、相談にすら乗ってもらえなかった、というケースがありました。そういう場合は一人で悩まず、組合員ではない方もぜひ組合に相談してください。