経営語で読み解く大学院改組の問題点:データなき改組が招くもの
1 審査項目との不一致
2 必要プロセスと時間
3 KPIとの不整合
4 提案(延期+再設計)
結論から言うと、現時点では、審査基準に照らした評価に必要なデータが提示されておらず、本件は実質的に「評価不能(判定不能)」の状態にある。大学当局は、6月のヒアリングにむけて学内アンケートや市場データを収集・分析をするようだが、このフローが持つ問題点を、以下、1審査項目との不一致、2必要プロセスと時間、3KPIとの不整合という観点から見ていき、4提案を示す。
1 審査項目(2026/3/5文科省事務相談において提示された主要な検討課題4点との不一致)
(1) 定員設定の根拠→数量的根拠(最重要)
● 文科省要求:充足見込みの提示
● 現行案:定員割れ継続、根拠未提示
● 評価:説明に必要なデータの未提示→数量評価不能
本学の現状:未着手;数値の根拠になるデータがない
(2) 人文系修士の需要→質的根拠(社会的正当性)
● 文科省要求:学生・社会双方の需要
● 現行案:既存調査依存、内部アンケート未実施
● 評価:実証データの未提示→質的評価不能
本学の現状:未着手;「学生・社会需要」データ不備;専攻設置(制度)との因果関係の説明不足
(3) グローバル・プロフェッショナル(仮)専攻拡大の根拠(2030)→将来計画の合理性
● 文科省要求:ニーズ分析
● 現行案:拡大方針のみ
● 評価:論拠の未提示→持続性評価不能
本学の現状:未着手;ニーズの把握への根拠となるデータ収集が必要
(4) グローバル・プロフェッショナル(仮)名称の適切性→受験生・社会への可視性
● 文科省指摘:不明確
● 現行案:未確定
● 評価:改善未着手
本学の現状:名称をどの会議がどうやって決めるのか
2 必要プロセスと時間
審査項目を満たすためのデータは、本学が提出しなければならない。しかし、アンケートを行うにしろ、社会的傾向の検証や分析にしろ、提出すべきデータが現状では揃っていない。少なくとも、文科省への提出データとして、以下の項目は必須であり、各項目に対しては、調査設計(対象設定・設問設計)→実施(一定期間の回収)→集計・統計分析→制度設計への反映→定員設定への転換、という工程を要する。これらは相互依存的であり、いずれかを省略した場合、審査に耐える根拠とはならない。それ相応の時間がかかるのは必至である。
● 定員充足の実証(特に外部志願者)
● グローバル・プロフェッショナル(仮)専攻の需要の定量的裏付け
● 既存制度との差別化の実証
● 教員リソースの実運用設計
3 KPIとの不整合
KPI1:機構設置後の産学共創教育への参画企業・機関数を30件以上
KPI2:新専攻設置後の2年で、アカデミア以外への就職者数を200人以上(定員148)
KPIの達成可能性を検証するための前提変数(志願者数・就職先数等)が未提示であるため、KPI自体が評価指標として成立しない。
詳しく見れば、KPI2において、定員148名のうち100名の修士修了者を非アカデミアに就職させるとあるが、当該目標値を達成するための制度設計上の前提条件(志願者数、就職先確保数等)について、整合的な説明が示されていない。現状の低充足率(定員130名に対し入学者97〜115名)への分析が10年間未着手という事実を鑑みると、このまま定員を148名に拡大することは、定員設定の根拠(充足見込み)との整合性も説明不可能となる。定員拡大やKPI達成は、志願者供給の構造設計と不可分なため、仮にそれを成立させるのであれば、例えば、高等専門学校(高専)や社会人のリカレント教育との接続といった、明確な供給ルートを制度として設計する必要がある。しかし現行案には、そのような供給構造は存在しない。また、KPI1の「企業連携30件」と「キャリアパス開拓」に関しても同様に、「学生が来る」根拠が一切示されていない。とりわけ、志願者数の見込みが未提示であることは、文科省からも指摘されている。
グローバル・イノベーション・デザイン機構は、他にも現時点で制度設計上に関して説明不十分な点が存在する。この機構は、既存の枠組みにプラスする形で「実務家教員でなければできない分野を新たに創出する」として2名の人件費が認可された。構成員は2部門で教員は16名、そのうちの新規枠(教授職の2名)がそれに該当し、2026年度はその枠で1名が新規採用となったようだ。
―――――(資料より抜粋)―――――
機構の教員研究組織の構成員数:24、そのうち学内からの振替:22
【教育研究DX推進部門】AIの利活用による教育研究の高度化の推進/グローバル越境学修推進部門(教授4人[うち1人が新規]、准教授3人、講師1人)
【新領域キャリア開発部門】博士前期課程修了者を中心とした多様なキャリアパスの開拓の主導/学融合・産学イノベーション共創部門(教授5人[うち1人が新規]、准教授3人、講師1人)
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実質的にこの機構の構成員の9割以上が既存の教員となり、大学が掲げる「実務家教員でなければできない」ことの整合性が説明されていない。また、「実務家教員ではない」既存の教員にとっては、専門外の業務負担が増加することにより、それぞれの教育・研究の質に影響が生じる可能性がある。機構の設置と大学院改組の制度設計は、検討対象および必要データが異なるため、分離して検証される必要がある。
4 提案
このグローバル・イノベーション・デザイン機構の存在理由は、明確に「改組を推進する中核組織」「全学的改組の実現」とある。「機構ありきの改革」と言われないためにも、大学院改組の制度設計の妥当性を別問題としてとらえる必要があろう。現行改組案は機構のKPIおよび文科省要求と整合しておらず、審査要件を満たす状態にはなく、改組実施の判断のための前提条件が整備されていない。機構が目標とする社会連携・実践教育・キャリアパスは否定するものではないが、大学院改組の制度設計は論理的に区別されるべきである。なぜなら、機構の設置それ自体の是非とは独立して、大学院改組の制度設計は個別に審査対象となるものであるからだ。
以上より、判断を行うための各前提条件が未整備のため、現時点では改組実施の判断自体が不可能である。審査要件を満たすための再設計と十分な検証期間の確保が必要であり、現時点では大学の利益に資するとは言い難い。 (分析:菊池、経営語翻訳:各種AI)
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組合員リレーコラム(6)
組合と私 匿名希望(事務職員)
先日、組合ニュースの中川裕先生の寄稿を拝読し、深い懐かしさを覚えました。私が東京外国語大学に事務職員として採用されたのは1989年(平成元年)。昭和から平成へと元号が変わり、新たに消費税制度が導入されるなど社会全体が激動の予感に包まれていた年でした。
当時は、2000年の府中移転や2004年の法人化を控えた旧西ヶ原キャンパスの時代です。大学はどこか牧歌的でありながら、濃密な人間関係が至るところに息づいていました。寄稿された中川先生や岩崎稔先生とは採用時期が近く、若手教員と事務職員として、廊下や食堂で言葉を交わす機会が多かったと記憶しています。
採用2年目から5年間在籍したAA研の事務室は、今振り返れば驚くほど重厚な体制でした。事務長及び事務長補佐以下6つの係が組織され、常勤職員だけで25名ほどが在籍。研究所という専門組織を支えるため、それだけの陣容が必要とされていたのでしょう。
何より特徴的だったのは、所員(教員)と事務職員の「距離の近さ」です。現在は両者の間では分業が進み対話が限定的になりがちですが、当時は双方が日常的に顔を合わせ、運営について立場を超えた意見交換を行っていました。根底には「AA研という船をともに動かしている」というある種の自負のようなものが共有されていたと思います。
もちろん、今と比べて、すべてが良かったわけではありません。今なら当然のITインフラも未発達で、連絡手段は電話や対面、手書きのメモが中心。制度面でも、例えば、超過勤務手当が各課室の予算枠に縛られ、働いても手当がつかない「天井」が存在するなど、現代の基準では考えられない不合理や、他部署のベテラン職員から、仕事の作法や立ち居振る舞いについて理不尽と思えるような「ご指導」を受けることも多々ありました。
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移転を控えていた旧西ヶ原キャンパスの設備環境も、今では信じられないほど過酷なものでした。教室にクーラーはありませんでした。夏は、7月の第2週でいったん授業を終えて、残りの2週間は、9月3週目から再開と記憶しております。クーラーなしでの7月の第3週以降の授業はできませんでした。私が勤務していた4号館1階(学生課・教務課)と2階(庶務・会計・施設課)の間では、契約電力の制限から、冷房を30分ごとに交互に稼働させるという運用が行われていました。一部の事務職員の間では、「人体実験」と呼ばれていました。
そんな私が組合に加入したのは、そんなAA研時代の初期でした。強い思想があったわけではなく、AA研事務室内の周囲の先輩方が自然に関わっている姿を見て、大きな抵抗もなく加入したというのが実情です。
当時は事務職員への体系的な研修制度が今ほど整っていませんでしたし、交流人事なども管理職を除いてはなかったに等しい時代でした。しかし、私は組合員以外でも大学生協の事務職員理事といった学内外の役割を担う中で、私の意識は変化していきました。活動を通じて多くの学内外の教職員と交流を深める中で、一つの確信を得るに至りました。それは、「事務職員は単なる補助者ではなく、教員と共に大学運営を支える不可欠な主体(パートナー)である」という認識です。この自覚は、その後のキャリアを支える大きな柱となりました。
中川先生との思い出で言えば、土曜日にも授業があった頃、音声学の講義を聴講させていただきました。専門知識を持たずに採用された私にとって、授業聴講やAA研の共同研究プロジェクトの一端に触れた経験は、本学が教育研究で何を大事にしているのかを理解する貴重な機会でした。
しかし、2004年の法人化を境に、大学の風景は変容しました。効率化のもとに業務が進む一方で、教員と事務職員の心理的距離は広がり始めたように感じます。互いの専門化が進んだ結果、互いの仕事の背景が見えにくくなり、まるで「それぞれの持ち場を守る」という意識に変容してきたようにも思えました。
さらに、新型コロナ禍によるオンライン業務の定着が、この傾向に拍車をかけました。効率は向上したものの、廊下での立ち話や雑談といった、関係性を潤滑にする「余白」が失われました。画面越しでは伝わらない温度感や、偶発的な対話から生まれる信頼。それらが損なわれることで、大学というコミュニティは個々の「島」へと分断されてしまったのではないでしょうか。
こうした時代だからこそ、私は今、改めて「場」の重要性を痛感しています。それは特定の権益を守るためだけのものではなく、個々が抱く違和感や課題意識を、再び同じテーブルに載せるための場です。
「この東京外国語大学を、どのような場にしていきたいのか」
この問いを、職位や立場を超えて率直に話し合える場所。それこそが、今の大学に最も求められているものの一つであり、その役割を担える可能性が組合にあると信じています。
以前は当たり前に持っていた「大学を支える一員」という感覚を、現代の形に即して再構築していくこと。これを組合に期待したいと思います。
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組合ランチのお知らせ
5月27日(水)11:45~13:00@海外事情研究所(講義棟427)
4/22(水)、今年は晴れやかな天気に恵まれ、ピクニックのような「拡大野外ランチ」には、22名の参加がありました。教員、非常勤職員の組合員のほか、新任者や労働者としての院生も参加し、それぞれが短い間でしたが交流し、バドミントンを楽しむ人もおりました。5月14日現在3名の新規加入がありました。学内で立ち止まって意見が交わせる場として、組合を活用してください。
今月は海外事情研究所でランチ会を行います。
(毎月最終水曜日に組合ランチ会開催予定)
新年度が始まって気づいたことなどあれば、教えてください。
お弁当や飲み物は持参してください。