2023/11/27

声明 国立大学法人法改正法案廃止を要求する

声明 国立大学法人法改正法案廃止を要求する

改正法案の何が問題なのか? 本学との関わりは?
 2023年10月31日に閣議決定された「国立大学法人法の一部を改正する法律案」は、11月17日衆議院文部科学委員会で可決され、大学自治の尊重等を記した付帯決議がついたものの、20日に衆議院本会議を通過し、参議院での審議が始まろうとしている。東京外国語大学教職員組合は、この法案の廃止を求める。本法案が成立すれば、「規模の大きい国立大学」のみならず、本学のような中小規模かつ言語学や文学、歴史学・地域研究といった一見すると「稼げない学問」中心の人文社会科学系国立大学における教育・研究の自由が制限される結果になることが強く危惧されるからである。

「運営方針会議」の設置から生じる懸念
 この改正案は、大規模な国立大学を特定国立大学法人に指定し、中期目標・中期計画及び予算・決算に関する事項等の決議・決定権を持つ「運営方針会議」を設置する内容を持っている。この会議は学長に事業報告義務を課し、改善措置要求を行い、さらに学長選考会議への意見、学長解任の報告義務等の権限を持つ。運営方針会議委員の任命は学長が行うものの、事前に文部科学大臣の承認が必要とされており、大学の組織運営に関する強大な支配権を持つ。学長の権限は大幅に制限され、大臣の承認権を行使した政府による人事介入あるいは大学側が事前規制する懸念も生じ、「大学の自治」や「学問の自由」が奪われかねないのである。現法人法の下でもいくつかの国立大で既に生じている政府寄りの学長権限強大化と政府の意に沿わぬ学長の解任などの事態がさらに拡大する可能性もあり、「第二の学術会議問題」さえ起こり得る。さらに、この法案には国際卓越研究大学設立目的である「稼げる大学」を他の国立大にも広げる意図が含まれており、総合科学技術・イノベーション会議CSTIに由来する財務面での規制緩和を国立大学法人全体にも及ぼすものとなっている。財源や人材を外部から導入することで大学を「成長」させようとするのは、まさに金で政府の言うことを聞かせる政策施行の手法である。

国立大学に対する長期的視野の必要性
 情報資本主義時代に相応しい「知識基盤社会」を本格的に実現し、諸種の方法で国力を回復させるため、国策の一環として国立大学を位置づけて利用するのは、新自由主義時代における「全体主義的体制」だとも言い得る。経済的政治的支配を国外に及ぼすことで国力を増そうとした帝国主義時代の延長上に総力戦があったこと、その途上で国家による学問の自由の剥奪と知の営みである大学への介入が行われたことを肝に銘じるべきである。現政府・財界は、惨憺たる結果を生み出したこの歴史を忘却し、再び彼らに都合が良く、短期で成果のあがると思い込んだ学問ばかりに投資することで、これに沿わない学問や大学を制度的に自滅させようとしている。学問・教育の成果を高い山にたとえて言えば、それが聳えていられるのは、裾野が広く、頂上を支える地盤が堅固だからである。この土台は利益のあがらない多様な基礎学問を行う研究者、それらを学ぶ学生、彼らを支える常勤・非常勤職員、そして彼らを擁する国立中小規模大や地方大学である。このような大学に対する運営費交付金を極限まで減らして潰すのだとすれば、高山が崩れていくのは火を見るよりも明らかだろう。世界最高水準の研究成果を得たければ、これから続く情報資本主義時代における100年単位のヴィジョンをもって、大学には長期的で安定した財政を維持させ、自由な研究教育を通じて学生・研究者そして基礎学問を育成していく必要があるだろう。
 このような理由から国立大学法人法改正法案の廃案を求める。

2023年11月27日
東京外国語大学教職員組合