「10年有期、雇い止め問題」
2013年に改正された改正労働契約法は、有期労働契約の無期転換への道を開き、2018年4月以降有期雇用契約が5年を超えて反復更新された場合は、無期雇用へと転換できる申込権が発生した。ところが、大学・研究機関では非正規教職員の有期雇用計画を、5年を越えて更新できないよう就業規則を改める事例が生じた。これを問題視した文科省が改正労働契約法の趣旨に沿うよう「慎重な対応」を要請したことで、無期転用や正規職員への道を開く諸機関も出てきた。さらに、当時京都大学iPS細胞研究所所長だった山中伸弥氏も、自らの研究所で働く研究者たちが最長で5年しか働けなくなることを危惧し、政界に働きかけた結果、研究者らについては無期転換申込権発生までの雇用期間を10年とする特例を含む「改正研究開発強化法」が2013年12月に成立した。その成果はあったとはいえ、山中氏は雇用期間を10年にすることで生じる問題も警告していた。10年雇用されれば、若手でも中堅に、中堅は定年間近になり、転職が利かない年齢になってしまうという問題である。これが2022年に有期雇用の研究者に突きつけられた。大学専任教員が研究環境に魅力を感じて10年任期の特任教授へと転職したものの、今回同じ境遇の研究者同士の競争になり、職が見つからないケース、プロジェクトリーダーが研究途中で設備を整理するよう研究所から指示されたケースなどが生起した。2023年3月末までに有期雇用が通算10年になる研究者が全国で3,000名を越え、そのうち半数以上が同時期までに契約終了の通告を受けているという。こうした事態を受けて文科省は、11月7日付で各法人長宛てに労働契約法の趣旨に照らし、無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的での雇い止めや契約期間中の解雇を控えるよう通達を出した。この効果を期待したいが、大学・研究機関における雇い止め問題の根は深いところにあり、簡単には解決しそうもない。
問題は、1970年代半ばから始まった情報資本主義時代における資本=「知」を握る大学・研究機関を総動員しなければ、世界的経済競争に太刀打ちできなくなったところに端を発している。本来的に大学・研究機関には馴染まない企業型思考をもって短期間で成果を上げる必要から、期間を定めたプロジェクト型研究・教育プログラムが推進され、長期的研究・教育を可能にする安定的基盤研究費が減らされてきた。これが研究・教育力の低下を招き、教職員の長期雇用を難しくしたのである。「10年特例」は、労使代表と公益代表の三者からなる労働政策審議会の審議も経ておらず、研究教育の現場を知らない議員達による一時しのぎの立法だった。1984年の臨教審以降の新自由主義的教育/科学技術・学術政策とそれに基づく諸改革の誤りを根本的に正すことなく、「若手・女性研究者」を一時的に支援しても、研究教育の根幹を担う中堅どころの首を危うくする大学・研究機関に将来はない。そう思う若手と女性が増えるのも当然なのではなかろうか。(古川高子)
大学院生のアルバイト事情
前号に引き続き、現在組合で手伝ってもらっている院生に、調査と聞き取りをしてもらいました。(web版追記:こちらに掲載したものは、紙面で発行するにあたって文字数が削減される前の、元の記事を掲載した。)
昨今の大学院生の経済状況を示すべく、以下2種類の文章を書き記している。1つはいくつかの全国的な調査結果をもとに大学院生の一般的な経済状況を探ったものであり、もう1つは本学に在籍している大学院生に主として現在のアルバイト状況について聞き取り調査を行なったものである。後者に関して、聞き取りに協力してくれた本学の大学院生たちが語っていることは、前者で示されている一般的なデータ・分析に還元できるものではないこと、また「内輪ネタ」を提供するためのものでもないこと(ここで念頭に置いていることの一つは、SNS等で教員が学生を「だし」にして共感を集めること/集めようとすることである)をあらかじめ強調しておきたい。
1. 昨今の大学院生の一般的な経済状況
一般的に、COVID-19の世界的な大流行が継続する昨今の状況も相俟って、大学院生は依然として厳しい環境に置かれているといわれている。このことを検証するため、以下では、
・全国大学院生協議会(全院協)の「2021年度 大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査報告書」[1]:以下、全院協調査
・日本学生支援機構(JASSO)の「令和2年度 学生生活調査報告」[2]:以下、JASSO調査
・全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)の「第11回全国院生生活実態調査 概要報告」[3]:以下、全国大学生協連調査
という2020・2021年度に行なわれた三つの調査の報告書から、近年大学院生が直面している問題を主に経済的なものに絞って探ってみたい。
1.1. 収入に関する状況
まず2020年度の収入に関する状況からみていく。全国大学生協連調査では、2020年度の修士院生の一ヶ月の収入合計の平均額が2018年度と比較して、自宅生は7,900円減少して73,400円に、下宿生は8,600円減少して128,000円になっているが、そのなかでも「小遣い」/「仕送り」が著しく減少していることについて(「小遣い」は5,600円減で13,400円、「仕送り」は6,200円減で62,500円)、同調査はコロナ禍での世帯収入の減少がその背景にあると推測している。さらに下宿生に関しては「アルバイト収入」「奨学金」も大きく減少していることから(「アルバイト収入」は2,700円減、「奨学金」は5,600円減)、経済状況がより厳しくなっていると指摘している。
次いで2021年度の収入状況についてみていく。全院協調査によれば、31.5%が2020年度から2021年度になって収入が減少したと回答している(「減少した」25.8%+「無収入になった」5.7%)(n=609)[4]。2019年度から2020年度にかけての収入減少も含め、こうした収入の減少がもたらす影響については、「調査・フィールドワークに行けない」33.7%・「食費など生活費を削っている」33.2%・「研究の資料・書籍を購入できない」29.9%・「海外への留学・研修に行けない」24.0%といった項目が上位を占めている(n=599、複数回答可)[5]。また62.2%の院生が収入の不足や学費の負担によって研究に何らかの影響を受けたと回答しているが、「アルバイトやTAなどをしなくてはならない」36.3%が最もポイントの高いものとなっている(n=598、複数回答可)[6]。特に私費留学生に限ると「アルバイトやTAをしなくてはならない」43.3%・「研究の資料・書籍を購入できない」32.8%・「調査・フィールドワークに行けない」28.4%・「パソコン・インターネット環境を整備できない」16.4%・「海外への留学・研修に行けない」17.9%・「授業料が払えない・滞納したことがある」14.9%・「退学を検討・予定している」6.0%等々となっており(n=65、複数回答可)[7]、サンプル数が異なるため一概に比較することはできないものの、軒並みポイントが高くなっていることから私費留学生がより経済的に厳しい状況に置かれていることが推測される。
こうした状況下、院生たちはどのような収入源によって学費や生活費を賄っているのか。まず全国大学生協連調査をみてみると、学費の負担に関しては複数回答で「親」66.2%、「本人(奨学金)」14.7%、「本人(貯金・アルバイトの賃金など)」11.0%という結果が出ている。またJASSO調査では、収入総額に占める割合が修士院生の場合「家庭からの給付」47.5%・「奨学金」21.3%・「アルバイト」17.4%・「定職・その他」13.8%、博士院生の場合それぞれ12.0%・23.8%・25.6%・38%となっている。そして授業料・調査研究費・生活費のそれぞれの負担主体を調査した全院協調査の報告では[8]、まず授業料に関して「親・親戚」42.7%が最も高く、「奨学金」20.5%に対し「アルバイト」17.7%となっている。次いで調査研究費に関しては「預貯金」32.7%が最も高く、「アルバイト」29.2%がそれに次ぐ高さであるのに対し「奨学金」20.8%となっている。最後に生活費に関しては、「アルバイト」40.6%が最も高いのに対し「奨学金」27.5%となっている。
こうした数字から真っ先にわかるのは、全院協調査も指摘していることだが、収入減少・収入不足によってますます重くなっている院生の経済的負担を奨学金が賄いきることができていない実態だといえる。ここから、修士院生の「家庭」負担の相対的な高さ(「家庭」に依存せざるをえないことからくる弊害や葛藤も増える)、博士院生のバイト等の負担の相対的な高さ(研究時間の剥奪)といった状況も生じてくるように思われる。
1.2. 奨学金に関する状況
次に、奨学金を関する大学院生の現状をみていく。JASSO調査によると、修士院生59.4%・博士院生64.3%が2020年度奨学金受給者ないしは奨学金申請者・希望者となっている[9]。種類別・設置者別の奨学金受給状況をみると、奨学金を受給している修士院生のうち国公立約89%・私立66.1%、博士院生では国立49.9%・公立66.3%・私立47.6%がJASSOの奨学金を受給している。全国大学生協連調査では2020年度JASSOの奨学金の「貸与を受けている」院生が33.0%・「申請したが受給していない」1.9%・「申請しなかった」65.1%となっており、またJASSOやその他貸与奨学金を「受給している」33.7%の院生のうち、65.0%のものが将来の返済について「大いに不安」または「多少不安」を感じていると回答したとしている。
2021年度の全院協調査では、奨学金の利用状況について、修士院生では「給付・貸与どちらも奨学金を利用したことがない」43.0%・「給付型の奨学金のみを利用したことがあり、奨学金返済の必要はない」15.7%・「貸与型の奨学金を利用している・利用したことがあり、今後奨学金の返済をする必要がある」41.3%、博士課程の院生ではそれぞれ31.5%・22.4%・46.1%となっている(n=596)。また奨学金制度を利用する理由としては「経済状態が悪いため」77.9%・「研究時間を確保するため」52.4%・「アルバイトを減らすため」50.6%などが多く(n=271、複数回答可)、奨学金を利用している院生のうち71.7%がJASSOの奨学金を利用している(n=385、複数回答可)。さらに有利子の第二種奨学金を借入している院生の52.1%が総額300万円以上借りており、このうち18.5%が500万円以上、10.9%が700万円以上、5.0%が900万以上を借りている(n=265)。そして、奨学金を借りている人の85.9%が返済への不安をかかえている(「かなりある」54.9%+「多少ある」31.0%)(n=268)。
続いて、奨学金を利用しない理由としては、「借金をしたくないため・返済に不安があるため」49.4%・「所得規定など申請資格を満たしていないため」42.8%・「申請したが、採用されなかったため」21.7%・「手続きが煩雑で申請に間に合わなかったため」15.1%などが高く、「利用する必要がないため」は0.0%であった(n=166、複数回答可)。こうした奨学金を借りていない院生が生活で困っていることとして、「食費など生活費を削っている」37.3%・「家族や親に負担をかけることに負い目がある」33.5%・「心身に不調をきたしている」25.0%・「労働時間を増やした」19.8%などがあげられている(n=212、複数回答可)[10]。また奨学金を借りていない院生が研究で困っていることとしては、「研究の資料・書籍を購入できない」25.2%、「アルバイトやTAをしなくてはならない」24.3%、「調査・フィールドワークに行けない」22.4などがあげられている(n=210、複数回答可)[11]。
以上のデータからは、特にJASSOの奨学金が単なる「借金」でしかないがために、それを借りざるをえない院生の多くは返済への不安を抱えながら、借り(られ)なかった院生は増加する身体的・心理的負担に悩まされながら、日々の生活を過ごさざるをえなくされていることがわかる[12]。
1.3. アルバイトに関する状況
次に、アルバイトの現状についてみていく。全国大学生協連調査は、2020年度「現在アルバイト(教育・研究目的に大学内で雇用されるティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタントを含む)を行っている」と答えた院生が65.1%で、2013年度42.8%・2016年度60.0%・2018年度65.7%と続いてきたアルバイト就労の増加傾向が止まっていると指摘している。さらに2020年4月-10月でアルバイト収入が「減少した」修士院生26.1%・博士院生14.2%、「大きく減少した」修士院生18.4%・博士院生13.6%となっており、全体では42.4%の院生がアルバイト収入が「減少した」または「大きく減少した」となっている。この期間のアルバイト状況に関しても、「アルバイト先の休業で勤務できなかった」修士院生10.2%・博士院生6.8%、「アルバイト勤務・シフトを勤務先から減らされた」修士院生11.3%・博士院生5.2%、「アルバイト勤務・シフトを自分から減らした」修士院生9.3%・博士院生3.5%、「新型コロナの脅威でアルバイトをしなかった」修士院生4.1%・博士院生4.4%となっている。以上より、COVID-19が院生のアルバイト状況に悪影響を与えたことがわかる。
そして、この悪影響を被ったアルバイトをする院生たちの中には、もともと厳しい経済状況にあったものも少なからずいたのではないかと思われる。JASSO調査によると、修士院生82.5%・博士院生71.1%が「アルバイト従事者」であり、そのうち修士院生46.0%・博士院生70.6%が「家庭からの給付のみでは修学に不自由」「家庭からの給付のみでは修学困難」「家庭からの給付なし」のうちいずれかの状況にある[13]。さらには、修士院生24.5%・博士院生25.5%が週3日以上経常的にアルバイトに従事している(ちなみに、ここではTA・RAはアルバイトに含まれていない)。また全院協調査では、院生のアルバイトの週当りの労働時間として、「20時間未満」19.6%・「30時間未満」10.4%・「40時間未満」5.5%・「50時間未満」4.2%・「50時間以上」8.9%という結果が出ている(n=597)[14]。同調査によるとアルバイトに従事する修士院生の22.7%が20時間以上、そのなかでも8.4%が40時間以上を一週間のうちアルバイトに当てており、これが博士院生になるとそれぞれ40.2%、20.4%という値となる(n=491)。学外アルバイトに従事する院生の目的としては「生活費をまかなうため」83.9%、「学費・研究費をまかなうため」55.5%、「将来に備えた貯蓄のため」31.4%が上位につけている(n=234、複数回答可)。「家庭」からの給付がなくなった、あるいは減少した博士院生が生活費や学費、研究費を賄うために研究時間を削ってアルバイトをしなければならなくなっていることがとりわけ印象深いように思われる。
1.4. 現状・将来への不安
全国大学生協連調査では、61.8%の院生が悩みやストレスが「ある」と回答しているが、そのうち「男性」57.4%・「女性」73.0%で、専攻別では「文科系」74.9%・「理工系」58.3%・「医歯薬系」65.8%となっている。悩み・ストレスの原因としては、複数回答可で「研究活動」が修士院生45.7%・博士院生61.0%、「将来の進路」がそれぞれ36.9%・43.3%、「お金」が15.9%・32.2%となっている。
JASSO調査では、「希望の就職先や進学先へ行けるか不安だ」に関して不安があると答えた修士院生48.7%(「大いにある」23.6%+「少しある」25.1%)・博士院生41.3%(「大いにある」19.8%+「少しある」21.5%)、「経済的に勉強を続けることが難しい」に関して不安があると答えた修士院生17.6%(「大いにある」3.6%+「少しある」14.0%)・博士院生23.7%(「大いにある」5.9%+「少しある」17.8%)となっている。
全院協調査では、大学院での研究・生活上および将来への懸念・不安について、「研究の見通し」71.9%・「生活費の工面」63.8%・「就職」60.8%・「研究費の工面」44.1%・「授業料の工面」41.2%・「奨学金の返済」33.9%・「研究条件の悪化」33.9%・「結婚・出産・育児」26.3%・「ハラスメントなど、人間関係」18.3%・「失業・雇止め」12.2%・「言語・コミュニケーションの問題」6.3%・「特になし」4.8%・「その他」2.8%。となっている(n=615、複数回答可)。
以上、大学院生の経済状況を概観してきた。ここで示した大学院生の経済状況の厳しさや不安定さは、大学院生、大学関係者の多くが経験的・直感的にすでに知っているもののように思われるが、改めて確認する機会になったのなら幸いである。
2. 本学の大学院生への聞き取り結果
以下に記されているのは、本学の大学院生6人に現在のアルバイト状況を中心として聞き取りを行なったものである。ただし、最後の自由記述・意見に関しては、上記6人以外の者の記述・意見も入っている。なお、学内の権力関係に留意して、匿名性・抽象性を高めていることをあらかじめ述べておく。またはじめに述べたように、ここで語られていることは、先にみた大学院生一般に関するデータや分析に還元できるものではないし、また「内輪」的関係に話の「ネタ」を供給するためのものでもない。
ケース1. 博士後期課程/学内アルバイト(複数)
・学費および生活費が苦しいためにアルバイトをしている。返済義務のある奨学金には手をつけたくなく、極力バイトで賄いたい。
・元々していた学外アルバイトは対人的側面が強く、移動や着替え等の手間もあって研究の片手間でやるには負担が大きかったため、そうした負担が少ない学内バイトを始めたし、続けている。
・学内アルバイトと一口にいっても、賃金は低いが職場の連携がとれており働きやすいものもあれば、賃金が相対的に高くても職場内でうまく連携がとれていないものもある。
・きちんとシフトどおりにアルバイトをいれられており、業務自体の負担もそこまで大きくないので、最低限稼いだうえで研究との両立はできている。
ケース2. 博士前期課程/教育関連アルバイト
・博士後期課程に進学したいと思ってはいるが確実に進学できる保証もなく、就職活動を行なうことも考えて、教育を通じ資格取得等に役立つ知識を思い出すことができる教育関連のアルバイトを今年の夏ごろはじめた。
・本当はアルバイトをしたくなく研究に専念したかったが、奨学金だけではやりくりできず、また語学留学にも行きたいため、アルバイトをせざるをえなかった。家賃や学費は奨学金と学部生時代の貯金で賄っていた。
・職場が物理的に狭く、賃金も安い(時給換算約1,133円)。また人員も少ないため、よく代役を打診される。さらには管理もあまりに一元的で、いちいちトップにわざわざ報告せねばならないために手間がかかる。ほぼボランティア感覚で仕事に従事している。
・準備等々の作業も含めある程度の時間をアルバイトのために割かねばならないため、研究の時間が削られてしまっている。疲れも当然出てくる。反面、時間の使い方を意識するようになり、時間・自己管理のやり方もよく考えられるようになった。
ケース3. 博士後期課程/学内アルバイト(複数)
・給付型の奨学金もえているが、いずれも声をかけられたので今年度からやりはじめた。
・いずれも多くの時間を割かねばならない仕事ではなく、そこまで負担にはなっていない。自分のやっていることとつながるものもあり、割と楽しんでできている。ただ、研究に必要なものとは別の、将来的に必要になるスキルを養うものと割り切っている側面もある。
ケース4. 博士後期課程/教育関連アルバイト・研究関連アルバイト
・教育関連アルバイトは1年ほど前から続けている。研究関連アルバイトははじめたばかりで、一応任期がある。
・教育関連アルバイトは週に3日行なっており、自分自身にとって大事な同じさと困難を分かち持つ子どもたち、人たちと関わることができるところにやりがいがある。それゆえ、時給は低いものの、あまりそこにはこだわっていない。研究関連アルバイトは週2日行なっているが、自宅で作業してもよいし時間も融通が利く。関係者も研究者が多く、職場の雰囲気も和やか。
・もちろん研究の時間が削られてはいるが、自身の研究に関連していることでもあるため、アルバイトを通してえられるものも多い。
ケース5. 博士前期課程/宿泊業アルバイト・学内アルバイト(複数)
・宿泊業アルバイトは知り合いに紹介されてはじめた。週1、夜勤。学内アルバイトは一回当りの勤務時間が短くそこまで時間をとられるわけではない。基本週4で勤務している。
・宿泊業アルバイトは一日の勤務で多く稼げる効率のよさと仕事の楽さ、学内バイトは授業外時間で行なえることと同じく負担の少なさが理由ではじめた/続けている。基本的に一人・少人数のものを選んだ。
・宿泊業アルバイトは最低賃金だが(もちろん、夜通し勤務なので深夜割増はあり)、仕事量が多くなく、また一人作業が主なため人間関係等での余計な煩わしさがない。学内アルバイトもきつい人がおらず、やりやすい環境で融通もききやすい。
・夜勤明けの日はつらいが、きちんと睡眠調整・管理すればそこまで問題はない。もし研究活動や講義・ゼミとアルバイトのバランスがとれてなかったとしても、アルバイトのせいではなく、自分の時間管理ができていないせいだと考える。
・奨学金は借りておらず、基本的な生活は仕送りでやっていくことができている。ただし、現地調査に行くためのお金や友だち付き合い・本の購入などのお金は自分で稼がなければならない。また仕送りは修士までといわれているので、博士に進むとなると収入をどう増やすか考えなければならない。
ケース6. 博士前期課程/教育関連アルバイト
・①それまでやっていたアルバイトが職種的に自分と相性が悪く別の職種で働きたかったため②単純に子どもと関わるのが好きなため③教職課程での学び・教員免許を生かせるかもしれないと思ったため、今年度からはじめた。通常週3で入っているが長期休暇時は週6入れるときも。
・今生活が苦しいというわけではないが、お金はあった方が生活は充実するし、大学院だと関わるコミュニティが限られているため様々な人と関われるいい機会だと考えている。留学に向けてお金を貯めなければならないということもある。
・職場の人間関係は良好で社員も親切だが、主要業務以外にもやらなければならない作業が多い。申告すればお金が出るものの、夜遅くまで職場に残ってそうした作業を行なわなければならない。
・アルバイトや授業のことでいっぱいいっぱいになってしまっているため、自分の研究にはほぼ手をつけられていない。
・修士に進学させてもらっているだけでもありがたく、あまり親に迷惑をかけたくないため、扶養家族から抜け出したい。修士までは進みたいと以前より決めており研究も続けていきたいが、研究者になれるかどうかはまったく保証がないため、博士への進学やそれ以降のキャリアに関して不安があり迷っている。
◆聞き取り協力者およびそれ以外の院生による自由記述・意見
・学生のリサーチ能力や情報取得への積極性が足りない側面はあるかもしれないが、それにつけても学費免除制度や学内研究会等々についての大学の広報が不足している。もっと積極的に色んな媒体で大事な情報を大学は周知させていくべき。
・学費等の免除申請の手続きが煩雑なため、もっと簡略化してほしい。同時に広報はもっと学内への周知を徹底してほしい。
・言語学習をその根幹に据えている本学の特性上仕方ないのかもしれないが、特に学部生にとっては日々の課題が多すぎると思う。この課題の多さは、バイトで生活費等を稼がねばならない人にとっては大きな負担になっていると考える。
・TAなど、教員は学部生・院生に振れる仕事をどんどん振っていった方がよいと思う。その際、業務によっては個人的な関係性が優先されるのは仕方がないが、公平性に欠けるため、できるだけ公募が望ましいと考える。
・書籍をスキャンできる場所が限られており、手軽にスキャンすることができない。いちいち自宅でスキャンしなければならず、手間がかかる。
・管理システムが導入され、勤怠管理がより厳格化された。
・所得税の扶養控除の103万という制限が時代に合っていない。103万で学生が満足いく生活を送っていくことはできない。
・ネイティヴ・チェックの仕事を当人の知り合いの院生がボランティアで行なうケースがあるが、こうした仕事を専門に行なうライティング・サポート・デスクのようなものが必要なのではないか。奨学金や研究助成の申請書類もみてもらえる場所だとよりよいと思われる。
・学部・大学院ともに入学金を納めなければいけない意味がわからない。入学試験を受けてそれに合格しているのだから、それで入学の資格は満たしているはずだ。少なくとも入学金を何に使っているのか、当事者たる学生にもっと積極的かつ詳細に知らせるべき。
・そもそもの学費が高い。
・学生の多くを占めるであろう中間所得層への支援が圧倒的に足りていないので、もっと充実させるべき。
・コンセントが少ない。なくてもそこまで困らない場所にはあり、便利で需要の多い場所には少ないのはなぜなのか。
・なぜ一般学生が体育館を使えないのか。
・講義棟が寒い。
[1] 全国大学院生協議会「2021年度 大学院生の研究・生活実態に関するアンケート調査報告書」https://www.zeninkyo.org/wp-content/uploads/2022/02/2021_anke-all.pdf#page70(最終閲覧日:2022/12/20)
この調査は「大学院生の研究及び生活実態を客観的に把握し、もってその向上に資することを目的」に2021年8月16日-9月30日にGoogleフォームを用いてWeb上で行なわれており、海外の大学4校を含む141の大学の609名から回答を得ている(内訳は、M3以上を含む修士課程が計39.4%、D3までの博士課程が計48.6%、医・歯・薬学系のD4が1.0%、OD・PDが計9.8%、その他が1.1%)。
[2] 独立行政法人日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査報告」https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/__icsFiles/afieldfile/2022/10/17/houkoku20_all.pdf#page70(最終閲覧日:2022/12/20)
この調査は、「大学学部、短期大学及び大学院の学生(通信課程、休学者及び外国人留学生を除く。)を調査対象とし、標準的な学生生活費とこれを支える家庭の経済状況、学生のアルバイト従事状況など学生生活状況を把握することを主眼として、全国2,982,972人から90,654人を抽出し、令和2年11月現在で実施したもの」とされている。回収率は41.5%、有効回答数は37,591人であり、数値はこの回答結果を基礎に調査対象学生総数の数値を推定した結果となっている。
[3] 全国大学生活協同組合連合会全国院生委員会「第11回全国院生生活実態調査 概要報告https://www.univcoop.or.jp/press/life/pdf/pdf_report11.pdf(最終閲覧日:2022/12/20)
この調査は「大学院生の経済的生活、日常生活、研究生活、進路、生協事業のとらえ方などを明らかにし、結果を大学生協の諸活動や事業活動、大学院生の研究生活向上にいかす」ことを目的として、全国の国公立・私立大学に在籍する修士課程・博士課程・専門職学位課程の大学院生を対象に2020年の10月-11月にWeb上で行なわれており(調査依頼は郵送・メール)、修士課程2,783名・博士課程367名・専門職学位課程その他94名の計3,244名から回答を得ている(回答率35.3%)。
[4] そのほかの回答として、「増加した」10.2%・「変化なし」58.3%。2019年度から2020年度での収入変化については、「増加した」6.1%・「変化なし」53.5%・「減少した」35.6%・「無収入になった」4.8%。
[5] そのほかの回答として、「オンライン器機を用意できない」11.4%・「心身に不調をきたしている」12.2%・「通信環境を整備(通信費増大)できない」8.5%・「授業料が払えない・滞納した」7.7%・「休学を検討・予定している」5.0%・「居住費(家賃)を払えない」4.7%・「2021年度から休学している(開始時期問わず)」4.7%・「退学を検討・予定している」3.7%・「その他」3.8%・「影響はない」35.4%。
[6] そのほかの回答として、「研究の資料・書籍を購入できない」29.9%・「調査・フィールドワークに行けない」23.2%・「学会・研究会に行けない」19.7%・「パソコン・インターネット環境を整備できない」15.7%・「海外への留学・研修に行けない」15.2%・「授業料が払えない・滞納したことがある」10.9%・「退学を検討・予定している」3.5%・「その他」2.7%・「影響はない」37.8%。
[7] その他の回答として、「学会・研究会に行けない」17.9%・「その他」1.5%・「影響はない」23.9%。
[8] それぞれ複数回答可。サンプルに関しては、それぞれ、授業料(n=599)、調査研究費(n=600)、生活費(n=603)となっている。なお、ここでは「アルバイト」と「TA・RA」は別々に集計されている。
[9] 内訳は、「受給者」が修士院生49.5%・博士院生52.2%、「申請したが不採用」が修士院生2.2%・博士院生3.7%、「希望するが申請しなかった」が修士院生7.7%・博士院生8.4%となっている。また博士院生の奨学金「受給者」は、国立54.9%・公立48.5%・私立45.5%になっている。
[10] 「影響はない」は35.8%。
[11] 「影響はない」は47.1%。
[12] 2024年秋から実施する方向で進められている大学院修士課程の授業料の後払い制度も「借金」としての奨学金制度の延長線上にあるものにすぎず、大学院生の経済的苦境を抜本的に解決するものには到底なりえないと考える。
[13] 内訳は、「家庭からの給付のみでは修学に不自由」が修士院生20.5%・博士院生14.5%、「家庭からの給付のみでは修学困難」が修士院生14.5%・博士院生13.2%、「家庭からの給付なし」が修士院生11.0%・博士院生42.9%となっている。
[14] そのほかの回答として、「働いていない」17.8%、「10時間未満」27.8%、「時間が決まっていない」5.9%。